遠州伝説「悉平太郎物語」
脚色 松下つね

演出

松下つね

配役

悉平太郎(犬)
一實坊弁存
村人一,二,三
うめ
うめの父
うめの母
老ヒヒ
若い衆1、2,3,4
第一幕
昔々今 からおよそ七百年前、遠州の見付で毎年行われる夏祭りの夜に、人身御供として天神様の生贄に町の娘ッ子が出されると聞いて、信州駒 ヶ根の光前寺の犬、悉平太郎をつれた旅の僧、一實坊弁存がその娘を救 うため、遠州の地を訪れました。
村人の声
(幕の中)
困ったのう、困ったのう、どうすりゃいいずら、
困ったのう、困ったのう

村人1

「かわいそうに、ふんとに可愛そうに、あのおうめちゃが今年の人身御 供だなんて・・・」
村人2 「何ていこった。あの優しいおうめちゃが、天神様に食われてしまうな んて」
村人3(源さん) 「まったくだわい。この見付の天神様と来たひにゃぁ、人間の娘ッ子を年に一辺食わんことにゃぁ町を守ってくれんだってさ」
村人1 「ちょっと源さん、声が高いよ、天神様に聞かれると、後の祟りがおっ かねぇだよ」
村人2 「でもなぁ おいらどうしても天神様が人を食うなんてバカな事考えら れねぇだよ。」
村人3(源さん) 「そうだよ、おかしいよ、そいだもんでよ、ほれ、神様の正体を調べる ために、一實坊弁存とかいう強い旅の坊さんが来るんだってさ。」
村人1 「やっぱりその話しはふんとか、そうやなぁ」
村人2 「ふんとだよ、なんせそのお坊さんは信州の悉平太郎とか言うどえらい 犬を連れて、はぁ、おうめちゃの家に来てるらしいよ、何でもどえらい 大きい、牛みたい大きい犬だそうだよ。」
村人3 「そうか、そんじゃあ、明日の祭の晩にゃぁ、その悉平太郎とか言う犬 が神様の正体をあばいてくれるっちゅうわけか」
村人1 「そうだよ、何とかして、おうめちゃを助けたいなぁ。うまくいくとい いだがなぁ。」
村人2 「今年の白羽の矢が、おうめちゃの家に当ったばっかりになぁ」
村人3 「けなげにも、見付の町を守るために、人身御供になるって言ってるって言うけど、本当はつらいだらに」
村人1 「うちのしゅうは、逃げよ逃げよって、町の掟なんてどうでもいいって言うだに、おうめちゃは、掟を破るとおとっちゃやおっかちゃが、この見付にいられんようになるっていうだってさ」
村人2 「見付の町が平和でいられるように行くでいいって言ってるって言うが、ふんとに不憫だのう。うちのしゅうはふんとに辛いのう」
村人3 「まぁず、可愛そうだなぁ。どうしても悉平太郎だかっちぅ犬に助けてもらわにゃぁいかんよ。」
村人1 「わしらも何とか助かるように、お祈りするしかないよなぁ」
村人2,3 「ふびんじゃ、ふびんじゃ。可愛そうに、可愛そうに。」
(村人、上手に去る)
 


村人の声 「困ったのう、困ったのう。どうすりゃぁいいずら。困ったのう、困ったのう。」
   
  (見付の若い衆、花道下手より白木の箱を担いで出てくる)
   
若い衆1 「着いたぞ、着いたぞ。さぁ、早いとこ天神様におねげぇすべえ。さあ早く早く。」
若い衆2 「どっこいしょ。そうだ、そうだ。天神様が正体を現さんうちにのう」
若い衆3 「おっかねぇだ、それにしても可愛そうなのはおうめさんだ。」
若い衆4 「ふんとだ、おうめさん申し訳ない。助けてやりてぇが、こればっかりはどうすることもできねぇ。ごめんよ。」
若い衆1 「さあ、いいか。おがむぞ。」
若い衆全員 「天神様、天神様。今宵は目出度い夏祭り。今年もまた一人、とびっき り上等の娘ッ子を差し上げます。 どうぞ、見付の町をお守り下さい。」
「これでよし。さあ、帰るぞ。」
   
  (走って怖そうにして下手へ立ち去る)
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